エクセサイズ 声がつまる・こもる・通らない方|過緊張発声を解消する
ここでは過緊張タイプの方が、声がつまる・こもる・通らないなどの過緊張発声を軽減・解消するためのエクセサイズを解説します。呼吸筋と喉頭筋もしくは声道をほぐしてから発声練習をします。E1〜9のエクセサイズをやってみましょう。
エクセサイズ _1 呼吸筋リラクセーション
はじめに、のびのびとした声を出すためのウォームアップとして、ストレッチによる呼吸筋リラクセーションを行います。より効果のある筋を探すために、まず楽な姿勢で深呼吸をして、下の図の位置に手を当て、鎖骨の下の動きが大きいか、脇腹肋骨やみぞおちの動きが大きいか比較してみましょう。
鎖骨の下 | 脇腹肋骨・みぞおち |
鎖骨の下の動きが大きかった方 → こちらをクリック
脇腹肋骨やみぞおちの動きが大きかった方 → こちらをクリック
エクセサイズ _1a むねうえ(胸郭上部)ストレッチ
深呼吸で鎖骨の下の動きが大きかった方は、まずこのウォームアップを行ってみましょう。
胸郭上部ウォームアップ
1)鎖骨の下に手を添える
2)呼吸時の呼吸筋の動きを確認
3)呼気の始まりにやや遅れて鎖骨の下を押す
4)吐く息に合わせて少し余分に押し1〜2秒静止
5)1分間繰り返し
6)両腕を真横に上げ、腕を90度曲げる
7)両肘を背中の方に反らし胸を張るようにして約20秒ストレッチ
8)続いて肘を下げ70度にして同じように胸を張り約20秒ストレッチ
9)最後に腕を伸ばし120度にして同じように胸を張り約20秒ストレッチ
70度 120度
注意点
・座位か臥位で実施しましょう。
・痛い位置まで無理に伸ばさず可能な角度で止めましょう。
・胸を反る際、肘はねじらないようにしましょう。
・筋が充分伸びていると感じるくらいストレッチしましょう。
・目標筋は胸郭上部肋間筋と大胸筋です。
・通常の吸気時には第1〜2肋骨は動かず(動くのは深呼吸時のみ)、第3〜6肋骨が上前方へ動いて胸郭の前後・横径を増します。従って第3〜6肋骨の上前方方向への動きをストレッチにより促進します。
起始:鎖骨、胸骨〜第7肋骨、第3〜6肋軟骨
停止:上腕骨結節大結節稜
作用:腕の内転・屈曲・内旋、第3〜6肋骨挙上
むねうえ(胸郭上部)スタティックストレッチ動画 *Google Chrome推奨
図 大胸筋の鎖骨部・胸骨部・肋骨部(Clayら 2004より)
エクセサイズ _1b むねよこ(胸郭下部)ストレッチ
深呼吸で脇腹肋骨やみぞおちの動きが大きかった方は、まずこのウォームアップを行ってみましょう。
1)脇腹または胸郭下部に手のひらを添える
2)まっすぐ押す(5秒)
3)脇腹の場合は反対側が動いていることを確認
4)確認しながら10回くりかえし繰り返し
5)呼気の始まりにやや遅れて脇腹または胸郭下部を押す
6)押す方向は胸郭の可動方向で、オーバーランして1〜2秒静止
7)1分間くりかえし
むねよこ(胸郭下部)ストレッチ動画 *Google Chrome推奨
注意点
・目標筋は胸郭下部肋間筋、側部肋間筋、外・内肋間筋です。
・直接呼吸主動筋をほぐし、呼気量増加に繋げることが目的です。
・吸気時の第7〜10肋骨は前後径ではなく横径が増しますので、横方向から反対側に押して筋のストレッチを図ります。
起始:上位肋骨下線
停止:下位肋骨上線
作用:胸式呼吸
図 胸郭下部肋間筋、側部肋間筋、外・内肋間筋(Clayら 2004より)
E2に進んで下さい
エクセサイズ _2 呼気筋力増強トレーニング
呼気筋を強化する筋力トレーニング方法です。
1)ストローの口をテープで塞ぎピンで穴を開けたものを用意
2)ピンホールストローを思い切り8秒間吹く
3)2秒で息を吸い、これを1セットとする
4)6回繰り返し
注意点
・単純な呼吸練習ではなく、呼気時に強い負荷を与えることにより呼気筋力の増強を図るトレーニングです。
・ご高齢の方は時間にとらわれず1回ごとにたっぷり休憩をとって、血圧の上昇や心拍数などに注意してください。
・必ず思い切り吹くようにしましょう。
・吹くときにほっぺたを膨らませると充分な効果が得られません。ほっぺたを膨らませないように吹きましょう。
・うまく吹けない場合は、たて笛やホイッスル・巻き笛などで練習し、慣れたらストローに進みましょう。ストローが細くて加えにくい方はペットボトルにピンホールを開けたものを使ってみましょう。
・8秒間×6回が難しい方は、5秒間×3回×3セットにしましょう。
・強い息が出るとベルヌーイ効果で声門が閉じるので、力を入れなくても声が出しやすくなります。ベルヌーイ効果とは水や空気などの流体が流れると、その流線上で圧が低下し物が引きつけられる現象です。発声時はこの効果で声門閉鎖が促進されます。
・高齢者では肋間筋・横隔膜とも遅筋が著明に萎縮し 速筋優位となります(長澤 1999)。そのため7回以下、概ね3〜5回程度のトレーニングが推奨されます。
・下のグラフは胸郭上部ストレッチ・胸郭下部ストレッチ・ブローイングによる声量増加効果の推移を測定したものです。日により最も効果がある方法は異なっていますが、徐々にベースラインの声量(エクセサイズ実施前の声量)が上がっているのがわかります。声量が上がると余分な力が抜けて楽に声が出せるようになります。
図 胸郭上部ストレッチ・胸郭下部ストレッチ・ブローイングによる声量増加効果の推移
エクセサイズ _3 喉頭筋リラクセーション
喉頭筋が過緊張状態になっていると声帯や声道が狭まり、声が詰まったり、苦しそうな声になってしまいます。以下のストレッチにより喉頭筋をリラックスさせ、喉頭の過緊張状態の軽減・解消を図りましょう。
エクセサイズ _4 のどした(喉頭側方下部)ストレッチ
まずこのストレッチで喉頭筋をリラックスさせます。声を聴きながらストレッチするので、最も効果的な過緊張抑制ポイントを探すことができます。ストレッチの際は体をリラックスさせて自然に呼吸しながら行って下さい。
1)下の画像の黒く塗りつぶした部位に人差し指を当てる
2)首を指を当てた側へ少し向け、人差し指をわずかに押す
3)そのまま20秒維持
4)元に戻してから楽に「へー」と声を出す(5回)
*声に変化がみられない場合は押す指の位置を少し変えましょう
5)続けて「ほー」「はー」も出す(5回ずつ)
6)反対側も同様にする
反対側も同様にする
注意点
声が変わらない時は、以下の方法を試してみて下さい。
・指の位置を5mm程度ずつ上下に移動させてみましょう。
・発声時間をより短くしてみましょう(最短で「あっ」というごく短い発声)。
・姿勢を変えてみましょう(背筋をのばす、首をあげる、腕を膝に乗せるなど)。
・もう一度ストレッチしてみましょう。
・休憩してから、改めてやってみましょう。
・首を回した時に、頭が正中線から傾いたりずれたりしていないかチェックしましょう。
・ストレッチ中、呼吸を止めていないかチェックしましょう。呼吸を停めると筋は硬くなってしまいます。リラックスした状態で実施することが大切です。
・目標筋は下咽頭収縮筋です。下咽頭収縮筋の過緊張により喉頭全体が圧迫されている、という考え方に基づいています。
・咽頭収縮筋の運動不良による嚥下障害(咽頭クリアランス低下)にも効果的です。
・これらは會田(2010)の方法を基にしています。
起始:甲状軟骨
停止:咽頭縫線
作用:下咽頭に入った食塊を食道に送る
図 下咽頭収縮筋(菅本監修 teamLabBody 2013より)
エクセサイズ _5 のどさげストレッチ(喉頭マッサージ)
喉頭筋に過緊張がみられると、発声時に喉頭が上がってしまうことがあります。そうすると声帯を圧迫して動きを阻害するので声門閉鎖がきれいにできなくなります。このような場合は、このストレッチが有効です。
1)甲状軟骨上縁と舌骨の間(下図参照)に指を当てる
2)ごく弱い力で押す
3)20秒維持
4)甲状軟骨上縁に指をかけ、甲状軟骨全体を押し下げる
5)押し下げた状態で発声
6)押し下げあり発声-押し下げなし発声を繰り返す
注意点
・ストレッチの際、首が上を向かないよう注意しましょう。首は自然に前を見る位置が適切です。
・これを実施し声がその場で変われば適応があります。
・徐々に押し下げなしの割合を増加していきましょう。
・目標筋は甲状舌骨筋です。
・喉頭全体の過緊張軽減が目的です。
甲状舌骨筋
起始:甲状軟骨
停止:舌骨体と大角の後面
作用:舌骨を下げる、舌骨固定時は甲状軟骨を上げる
図 甲状舌骨筋の解剖図(Clayら 2004より)
図 甲状軟骨の位置
エクセサイズ _6 のどよこ(喉頭前面)ストレッチ
のどしたストレッチやのどさげストレッチであまり効果が出ない場合はこれもやってみましょう
1)首を真横に向け反対側の手を背中につける
2)そのまま頭を少し上に向ける
首の筋肉が伸びている感じがするように
3)そのまま20秒維持
4)ゆっくりと戻す
5)反対側も同様に実施する
注意点
・ ストレッチ時に頭を若干背中側に傾けるとより効果的です。
・ 呼吸は止めず、リラックスした状態で実施することが大切です。
・目標筋は胸骨舌骨筋です。
・胸骨舌骨筋の過緊張により喉頭全体を前面から圧迫し、声が出し辛くなるという考え方に基づいています。
・喉頭全体の過緊張軽減に効果が見込めます。
・喉頭挙上制限が原因の嚥下障害にも効果的です。
・これらも會田(2010)の方法に沿っています。
胸骨舌骨筋
起始:胸骨柄・胸鎖関節・第一肋骨の軟骨部の後面
停止:舌骨体
作用:舌骨を下方に引く
エクセサイズ _7 舌+下あごマッサージ
口の中全体、中でも舌が過緊張であると喉頭を上から圧迫し、声帯の動きを阻害してのびのびとした声が出せないことがあります。舌の過緊張がありそうな場合には、舌を中心とした口腔内の筋肉のリラクセーションを行いましょう。
1)歯ブラシの背やスプーンなどで舌の中ほどをぐっと押す
2)左右に少しずつ揺らしながら10秒間押し続ける
3)少し休んで3回繰り返し
4)舌を思いっきり出して20秒そのまま維持
5)下あごに親指を当てる
6)まっすぐゆっくりと上に押す
7)ゆっくりと戻す
8)首のつけ根にむかって位置をずらしながら数回繰り返す
注意点
・声道全体が過緊張になっているケースに適応があります。
・目標筋は外舌筋・舌骨上筋です。
・外舌筋・舌骨上筋 などの声道に関与する筋を全体的にほぐすことにより喉頭の過緊張を軽減することが目的です。
図 外舌筋・舌骨上筋の解剖図
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エクセサイズ _8 ピッチストレッチ
喉頭筋のリラクセーションのためのストレッチ方法です。ピッチとは声の高さのことです。声帯が伸ばされると声は高くなり、声帯が緩むと声は低くなりますが、この声帯を<伸ばすー緩める>という動きは、運動学的にみるとストレッチと同じ種類の動作になります。声の高さを意図的に大きく変えると、声帯そのものと声の高さを変える筋肉(輪状甲状筋)の二つがストレッチされることになります。ストレッチは筋緊張を軽減させますので、これにより過緊張発声を軽減できる可能性があります。ただし効果はありますが、実施がやや難しいので優先順位は最後になっています。
1)楽に意識せず「あーいーうーえーおー」と発声
2)この声の高さを地声の高さ(ド)として決定
3)ドを起点として「ドーレー、ドーレーミー・・・」と音を高くして行く
4)裏声にならない限界の高さの音まできたら、その音と最初のドを反復して出す(10回)
(例:ラの場合「ドーラードーラードーラードーラー・・・」)
注意点
・声帯と喉頭全体が過緊張なケースなどに適応があります。
・目標筋は輪状甲状筋です。
・声帯を大きく伸ばしたり緩めたりすることにより声帯粘膜の柔軟性を回復すること、輪状甲状筋(下図参照)のストレッチにより喉頭前部の過緊張軽減を図ることが目的です。
・高い方の音は裏声にならないよう気をつけましょう。
・あまり高い音が出ない場合には首を上に向けると出しすくなります。
・音階がうまく出せない場合には、音階ではなく連続的に音を高くすることで高音を出しやすくなります。
・高い音を出すために輪状甲状筋をマッサージする方法もあります。
・ピッチ変化を体系化したものにYUBAメソッド(弓場 2013)があります。興味のある方はご参考にして下さい 。
図 輪状甲状筋の解剖図
エクセサイズ _9 アシスト発声練習
本番の発声練習です。リラックスしてやりましょう。
1)リラックスした楽な姿勢で「へー」と声を出す(5回)
2)続けて「ほー」「はー」も出す(5回ずつ)
*慣れるまでここまで練習してください
3)慣れたら続けて「え」「お」「あ」「う」「い」 を3秒程度声を出す(5回)
4)比較的思い通り声が出るようになったら、日常よく使う言葉(おはよう、こんにちは、ありがとう、おーい、など)を使い、しっかりと言う練習をする
5)個々人のニーズに合わせ、しっかりした声で言いたいフレーズ(「申し訳ございません」「お待たせしました」とか、「誰か来てー」「手伝ってー」など)を練習する
注意点
思ったような声が出ない時は以下の方法を試してみて下さい
・発声時間をより短くする(「へっ」「はっ」という一瞬の短い発声)。
・姿勢を変える(背筋をのばす、首をあげる、腕を膝に乗せるなど)。
・もう一度ストレッチする。
・休憩してあらためて試す。
・母音(あいうえお)で思い通りの声が出せたら、母音を長く伸ばしたり、「ああ」「おい」など母音を組み合わせた重母音を大きな声で言う練習を入れるとよりスムーズです。
・母音で思い通りの声が出せても単語で出ない場合は、ハ行音で始まる単語で練習してみましょう(「へや」「ほん」「はさみ」など)
・他にマ行やナ行、サ行などで始まる単語でも出しやすいのでやってみましょう。
・いずれも仰向け姿勢で行うのがもっとも効果的です。
過緊張発声軽減エクセサイズ の注意点
・朝夕1セットずつ、できれば毎日、最低でも週2〜3回行って下さい。
・初回で声が変わる率は3割〜5割程度ですが、初回で変わらなくても数回のうちに変わることもありますので、諦めずに継続してみて下さい。
・最終的に概ね7割程度の方に何らかの変化がみられています。
・練習期間は、毎日あるいは隔日で行った場合でおよそ1〜2ヶ月、週2回の場合は2倍の期間が目安です。週1回より少ないと充分な効果は期待できませんのでご注意下さい。
・望ましい発声が常に意図的に再現できれば終了段階です。
・ただしエクセサイズは疲労を伴います。特にはじpめのころは一旦楽に声が出ても、続けて出すとすぐにつまった感じになって出なくなってしまいがちです。これはストレッチなどによって一時軽減した筋の過緊張が再び亢進してきてしまうためです。その場合は休憩(インターバル)をたっぷりとり、やや落ち着いたところで再開しましょう。回復がみられないようであれば迷わず終了しましょう。
・エクセサイズ中は、できるだけ過緊張状態を亢進させないよう、リラックスと休憩を心掛けながら行いましょう。
・過緊張発声に伴う声の裏返りや不自然に高い声は、過緊張状態が改善すると解消しますので、特別な練習は必要ありません。
・思い通りに声が出ない場合でも、繰り返していると、どこかで過緊張状態が軽減し、良い声が出る瞬間があります。それを反復すると定着していきます。他に笑うようにして力を抜いて声を出すと過緊張発声に改善がみられる笑い声発声を試す方法もあります。また、声量の増加により、喉頭の負担を軽減させ、過緊張発声を軽減させる方法もあります。声量増加エクセサイズをやってみても良いでしょう。
・それでもうまくいかない方、もっと声を良くしたい、高度なトレーニングテクニックを知りたい、という方は、上級知識を解説した「高度な実施法」をご覧ください。
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